人の喜び

会社の他部署の部長が休暇なのに、事務所にやって来た。

部署の社員のお見舞帰りに寄ったとか。

「○○さん、集中治療室にいたんだけど、話が出来たよ。」

良かったですねぇ。
話が出来るほど、回復して。

なんて、穏やかな時間が、しばしば。

今日の部長は、仕事の時に着るスーツと違ってラフです。
良かったなー、の後は私も仕事に戻りました。

「親父の腕時計、売ったんだロレックス。」

「百万になったわぁ」


え?


そばにいた他の仲の良い社員に向けて話してたんでしょうけど、私にも聞こえてしまいました。

「ええ!?」
「凄いですね!」

場が沸き立ちました。


なんで売っちゃったんですか!?

「オーバーホールするのに6万掛かるんだよー。」

わ、ロレックスて維持費も高いんだ…。
とは言えお父さん形見ですよね?

「お袋が、売って好きなものでも買いなよって。」

(きっと他にも思い出の品があるだろうし。遺品整理って大変だもんねぇ。)


「ちょっと今日飲みに行こうよ!」

部長と仲の良い社員さんが言い始めました。

「どこ行く?」
「鰻?寿司?叙々苑?」
「店、検索!」




食事の話になったとたん、興味が失せました。

なんで、そんなに美味しいの食べたいのかなぁ。
高くても、美味しいとは限らないと思うんだけど。
他人の美味しいが自分の美味しいとイコールとは限らないと思うんだけど。


と、思いながら、その場を離れました。


仕事中の、にわかの賑わいは終わり。

他人の高額臨時収入も美味しいタダ飯も、
興味が持てないものだな。