桃を抱いて帰る

我ながら馬鹿馬鹿しいが、スーパーでは桃を買ったことがない。

桃は果物の中で一番好きなのだが如何せん高く、手が出しづらく、安いバナナが目につくからだ。
だからいつも桃の香りに店舗に入った時から気が付いたとしたも、その値段を確かめて、うーんと唸って、終わらせる。
インスタント食品やお菓子に比べて安いのに何故か買う気にはならない。


その癖、駅前でトラックを道に止めて販売してる時には、眺めるつもりが、少しだけ、と思っていても大体買い込んでいるんだ。

今日も、小さい桃を3個300円で売っているのを目に入れたせいで、大きめな桃を6個1,000円分買った。

「こっちの方が大きいよ」
「もう終わりだから、ひとつおまけね」
なんて、ありきたりな売り文句に乗って、千円札を渡したのだ。
最初に「食べきれないから」牽制を店主と自分にしたはずなのに、実家に二つ渡せば良いと思って買ったのだ。

しかも今日は「会社からの最寄りの駅前」。
これから電車に乗って帰らなくてはならないのに。

サービスで袋の中に足された桃は、やっぱり少し熟れすぎていて、実が柔らかかった。
なるべく何処へも当たらないように気を付けながらビニール袋を腕に下げていた。
その内どうにか座席に座れ、そっと膝の上にビニールを乗せる。6個入ったビニールは脚の上で安定が悪く、腿を緊張させて
崩れ落ちない様に気を付けた。

袋から香る桃。これはきっと熟れすぎていて皮を剥いたら茶色くなっている。
帰り道で必ず実家に寄って渡そう。
帰ったら直ぐに冷蔵庫に入れよう。

冷えて甘く瑞々しい桃を思い描きながら、
ビニール袋を抱え続けた。